悠真君も、相当お人好しですけどね by紗綾
著者:高良あくあ


「とはいえ……」

 帰り道。私の隣で、悠真君が嘆息する。

「やっぱり、部長の『来る者は拒まず』な姿勢はどうかと思うんだ」

「確か、科学に関係の無い依頼でも、即オッケーしてしまうんでしたっけ……」

 悠真君曰く、部長さんが依頼を断ったことは、片手の指で数えるほどしか無いとか。

「うちの部は『科学研究部』のはずなんだけどなぁ。いつも部室でやっていることこそ怪しげな薬開発の手伝いだけどさ、それに関連する依頼は殆ど無いと思わないか?」

「……入ったばかりだから分かりませんけど、何となく分かります」

 答えると、悠真君は苦笑する。

「ま、言ったところであの部長が止めるわけ無いけどさ。薬の開発も、依頼を受け付けるのも」

「そうですね。……部長さん、何だかんだ言ってお人好しですしね」

「それが俺達に多大な苦労を運んでくるわけだけどな」

 遠い目をして笑う悠真君。

「多大な苦労、って……例えばどんなことですか?」

「……聞きたいのか、紗綾?」

 私の方をじっと見てくる悠真君。
 ……あうぅ、聞きたいとかそれ以前に、好きな人にこうじっと見られるのは、何と言うか、私には勿体無いですよー!

「え、遠慮しておきますっ」

 答えると、悠真君は笑って前を向く。

 ……僅かな沈黙。居心地が悪いわけでも、気まずいわけでもないけれど……でも、こういうのは何かこう、くすぐったい感じ。

「あの、悠真君」

「何?」

 顔だけを私の方に向ける悠真君。

「灰谷君とは、仲、良いんですか?」

「え? ああ、海里か。そうだな、仲が良い方に入ると思う。一応小学校からずっと一緒だし。あ、ちなみに陸斗、あいつは中学で知り合ったんだ」

「……そう、なんですか」

 思わず俯く。それを悠真君に悟られないよう、急いで顔を上げる。

 ……この質問には、流石に答えてくれないだろうなぁ。

「お二人と仲良くなったきっかけって、何だったんですか?」

 訊ねてみると、案の定、悠真君の顔が暗くなる。少しして、彼は呟くように答える。

「ごめん紗綾。それ、話したくないんだ」

「……すみません」

 謝ると悠真君は何かに気付いたかのように顔を上げ、笑う。

「ああ、別に紗綾が気にすることじゃないぞ。ただ単に……色々あっただけだ」

 そんなことを言って、悠真君が立ち止まる。見ると、そこは私の家の前で。

「ほら、着いたぞ」

「あっ…………す、すみません、また送って頂いてしまって!」

 慌てる私に向かって、悠真君は苦笑する。

「いや、いいって。部長が遅くまで部活を続けるのが悪いんだし、帰りが遅いと紗綾一人じゃ危ないだろ。じゃ、また明日な」

「は、はい、また明日」

 去っていく悠真君を見送り、家の中に入る。


 ……それにしても。


「……駄目ですよ、悠真君。問題から逃げているばかりじゃ、前には進めません」


 だから私も、部長さんに負けてしまいそうで――

「と、流石にこれは、言い訳になってしまいますね」

 呟くと、私は一人苦笑した。



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